fx 比較 初心者の心をつかむための施策
Sは、Kが提示した三〇〇円のプレミアムが妥当かどうか少々気になったが、Kはこの種の計算の専門家である上に、昔からの友人だということもあって、面白半分でこの契約を受け入れたのであった。
一方、フットの引受け人となったKの思惑は、以下の通りである。
先に述べたとおり、KはT社株が五五〇〇円まで下げたら買いたいと思っていた。
恐らく、六ヵ月以内にそこまで下がることはないだろう。
しかしこのフット契約に応じておけば、一株当たり三〇〇円のプレミアムを手に入れることが出来るので、仮に五八〇〇円で買わされることになったとしても、実質的には、五五〇〇円で買ったのと同じことである。
また権利行使日に五八〇〇円を超えていれば、Sは権利を放棄するに決まっているから、プレミアム六万円は丸儲けである。
確かに、株が五〇〇〇円を割って大損する可能性も皆無ではない。
しかしそんなことは千に一つも起こらないだろう。
さて、その後フラフラと変動を続けたT社株は、九月一四日の終値が六一三〇円となり、フット・オプションは権利行使されずに手仕舞いとなった。
ある資産を、一定の日時に一定価格で売る権利フットが売買されているのであれば、買う権利が売買されたとしてもおかしくない。
実際、この権利は「コール」と呼ばれており、フット同様に広く取引されている。
コールもフット同様に、買う「権利」の取引であって、買う「義務」は伴わないことに注意しよう。
権利行使価格が五八〇〇円、プレミアムが三〇〇円のコール・オプションの収益を表すと、コールの収益は、フット・オプションと原資産を組合せたSの収益曲線とウリニつであることが分かる。
さて、KはS教授にフットを売ることで六万円の利益を得たが、これはS教授の懐から出たものであった。
つまりフットにせよコールにせよ、デリバティブは「売った者の利益は買った者の損失になる」、という構造を持っているのである。
因みに、何年か前のことになるが、A銀行の営業マンが、K大学のF教授のところへ、日経225インデックスを原資産とするオプションを売りに行ったところ、「こんな不道徳な商品を売りに来るのは許せない」と一喝されて逃げ帰ったという。
日経225が値上がりしたときは丸々利益を手にしておきながら、値下がりしたときの損害はまったく負担しないでいい、と言うのでは、エンジニアの倫理にもとるというのである。
では果たして、デリバティブは不道徳な商品なのだろうか。
答えはYES&NOである。
既に述べたとおり、デリバティブは使い方次第で毒にも薬にもなるのである。
ここでもう一度、T社株に関わるフット契約を思い出していただこう。
手元にT社株五〇〇株を保有しているS教授は、株が値下がりして、さらにロスが大きくなることを心配していたのであった。
たった五〇〇株、三〇〇万円程度の損害はどうということはないかもしれない。
それでは、五万株だったらどうだろうか。
一〇〇〇円の株価下落で五〇〇〇万円の損失である。
将来、大きな損失が発生する可能性を心配する人にとっては、この危険を回避するために、いまフットを買うことは、十分に意味のあることなのである(因みに、この戦略を専門用語ではプロテクティと呼ぶ)。
そこで次に、S教授にフットを売ったK教授について考えてみよう。
K教授は、結果的にこの取引で六万円の利益を手にしたのであるが、万一株価が五〇〇〇円になったとすれば、この株をS教授から五八〇〇円で引き取らなくてはならない。
一株あたり八〇〇円、二〇〇株で一六万円のロスが発生し、既に手に入れてあった六万円を加えても、一〇万円の損害を蒙ることになる。
万一T社が倒産して、株が只の紙切れになったとすると、一一〇万円もの損害が出ることになるのだ。
こう考えると、六万円のプレミアムの代わりに、フットを売って万一の場合の巨額のロスを引き受けたK教授は、かなりのギャンブラーであることが分かる。
ギャンブラーたちにとっては、オプションは極めてエキサイティングな投機の機会を与える。
いま、六ヵ月後にT社株二〇〇株を、一株五八〇〇円で売るフットを購入した投資家を考えよう。
ここではこの投資家は、株式を保有せずにフットだけを買ったものとしよう。
さてこの株が五〇〇〇円まで下落すると、二〇〇株を市場で一〇〇万円で購入し、これを一株五八〇〇円、全体で一二(万円で売ると、二八万円の利益が得られる。
したがって、プレミアム六万円の投資で一〇万円の純益‐収益率でいえば、六ヵ月で二八七%、利益、原資産に投資した場合の何倍にも及ぶ投資効果(これをレバレッジ効果という)である。
因みに、全米投資家コンテストのデリバティブ部門の優勝者は、オプションを売買することで年間二〇〇〇%の収益をあげたという。
しかしその一方で、六ヵ月後の株価が五八〇〇円以上の場合は、プレミアム六万円は丸損になる。
収益率はマイナス一○○%という次第である。
このように、原資産を持たずに、オプションだけを売り買いする契約は、極めてギャンブル性の高い取引であることが分かる。
先ほど、エンジニアのF教授のところにコール・オプションを売りに行って、”不道徳だ!”と一喝されたA銀行の営業マンを紹介した。
ところが、彼の不幸はそれだけでは終わらなかった。
数日後、オフィスに姿を現したこの営業マンは、”K大の先生の金融オンチにはまったく困ったものです。
オプションどころか、金利すら知らないんですから。
そこでデリバティブにお詳しい先生に、このコールを買っていただければ(それをとっかかりに大学中で売りまくれるので)、助かるのですが、……”と切り出した。
ところが、取り出した資料に記載されたオプション料を見たKは、少々高すぎると直感した。
そこで、おもむろにパソコン上にF氏‐M氏公式を呼び出し、データを打ち込むと、案の定、ボラティリティがかなり高目に設定されていることが分かった。
そこで、”ボラティリティが高すぎるな“、と呟いたところ、”ボラティリティつて何ですか?”。
“ボラティリティも知らないでオプション売っているのか”。
かくして件の営業マンは、再びスゴスゴと退散する破目になった。
そこで以下では、オプション価格がどのように決まるかについて、大筋を説明しよう。
コール・オプションから得られる利益は、権利行使価格尺の株価の大きさによって決まる。
株価が権利行使価格尺を上廻っている場合は、利益となり、下廻った場合の利益はゼロになる。
コールの価格は、大雑把に言うと、このコールの所有者が、“平均的に見て”将来いくらの利益を手にするかによって決まる。
平均的利益を計算するには、株価が権利行使日にどのように分布しているかを調べた上で、その分布の下での利益の平均値を求めてやればよい。
株価の動きをモデル化する時に用いられるのが、ランダム‐ウォーク仮説である。
これは株価の収益率が、時間の経過とともに、ランダムに(まったく不規則に)変動する、という仮説である。
この単位時間当たりの変動率が、専門用語でいうボラティリティである。
この関係を数式で表したのが、「確率微分方程式」である。
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